bs.fukufuki

bookshelf of fukufuki 留学、英語、物語、よしなしごと

選定の印は偽物か(フリーゲーム『冠を持つ神の手』考察)

この記事は

フリーゲーム「冠を持つ神の手」への重大なネタバレを含みます。
・ダウンロードはこちら


「冠を持つ神の手」の世界設定

・ゲーム自体は育成系のものです。

・舞台はリタントという王国。
・リタントのある大陸は西部にリタント、東部にホリーラという国をそれぞれ抱える。リタントとホリーラの間、大陸のほぼ中心には長い壁がある。

“壁
ホリーラとリタントの境に、北から南へと縦断する壁のことを指す。
アネキウス暦7200年代後半、統一国家ダリューラの分裂に伴い、国境線に沿って建設された。
石造りで高さは三メートルほど。途切れ目も扉も存在しない。
超えることは容易であるはずだが、建設されてこのかた超えることはおろか、その向こうを覗いた者すらいないとされている。”
グラドネーラ事典より)

・ひとつしかない大陸、およびこの世界の全体はグラドネーラと呼ばれている。
・リタントの王は血縁ではなく「印」という身体的特徴により決まる(これを持つものは20年に1人ほど生まれ、そのものは身分に関係なく王となる)

“選定印
神に与えられた王たる者だけに授けられる冠とされている。生まれた時から額に浮かんでいる複雑な形をした痣で、緑色に光る。皮膚が直接染まっているかのようだが、その部分を刃物などで穿っても、肉の向こうからその緑の光が消えることなく覗く。王国リタントでは、この徴を持つ者だけが王となることが出来る。かつてリタントが統一国家ダリューラから分裂した際に、三足族を率いた初代国王の額にその徴があったことが起源となっている。”

冠を持つ神の手 - Wikipediaより)

そもそもの断り書き
・oumi氏はQ&Aコーナーでも「それ以上いけない」等、世界設定に対して明白な言及を避けてらっしゃる(ような感じがする)。
グラドネーラ事典の控えめさとあわせて、oumiさんご自身が「真実を語る者」になることを避けられているようにみえる。*1
・とはいえ、詮索する側としては秘められるほど気になるというのが人心というもの。先述の理由で情報がかなり不足しているゆえ「妄想」が混じってしまうのは避けられないのですが、あくまで類推・妄想としてお楽しみいただけたら。

今回使った資料
「冠を持つ神の手」質問企画
・ブログ『フリゲと旅と映画について』さま

『冠を持つ神の手』 ルージョン 感想 攻略 その11 - 冠を持つ神の手
・シナリオ中のキャラセリフ、本の記述

本編中に出てくる世界設定に対しての疑問
・魔術師が「禁忌」扱いされるようになったのは、正確にはいつだったのか(われわれは「魔術師が禁忌」であるという前提で歴史を見ているが、たとえば実際は「魔術」「魔物」とが昔は区別されていて、ある時期(私たちが思っているよりもはるかに最近)に「魔術師=魔物」という思想とともに魔術師迫害がはじまった可能性はないか)
・関連して、ルラントは魔術勢力だったのか(これもその当時に魔術が禁忌だったかにより意味合いは変わるだろうが、一応)

私の推測
・大昔、魔術はあらゆる人のもので、信仰には魔術の禁忌視は含まれてはいなかった
・ルラント自身が魔術師かどうかはわからないが、ルラント派はほぼ間違いなく魔術の使える一派だった
・ルラントが魔術師であることがばれて……というよりは、ルラントが失踪した後に、何者かの意図によって魔術が王権の内部から追放され、魔術師が禁忌扱いされるようになった&あわせて現在の国家宗教的な信仰が作られた可能性がある(そしてその「何者か」は歴史的記述に沿うならば、神殿勢力であると推定するのが自然ではあるだろう)
・徴システムの魔術性を知るのは神殿だけ、徴の真正性を判断できるのは王室だけという知識の非対称性も、ルラント失踪後につくられたのではないか。
・徴はルラント以前の古代の魔術師が作ったものだったのでは? ルラント以外の魔術師(おそらくは神殿)が徴に「手を加え」いまの仕組みをつくった可能性もあると思うが、魔術の技法の多くは「失われて久しい」という公式Q&A、またドゥナットの「古代の魔術師」という発言を踏まえると、徴自体が編まれたのははるか昔なのではないか。
・アネキウスは偉大な魔術師が神格化された存在かもしれない

傍証 ※ちょっとかなり説明をすっとばしています
・魔術師の禁忌、国境越境禁止における「神に見放された」という表現の多用(国家建設にあたり必要だった禁忌を宗教化することで、禁忌の確立とともに宗教性を確立させることに成功した、というのは、グラドネーラ世界が高速移動手段のない中世世界であることを考えると理にかなっているように思う)
・「そういえば、こんな噂もあるんですよ。
古神殿はもちろんリタント建国以前からありますよね。
あるのは、こっちだけじゃないって話。
そう、壁のむこうですよ。
こっちとあっちを分ける壁のね。
それにね、さすがに聖山までには壁は建てられませんや。
罰当たりだ。
だから、奥のほうにこっそり向こうとつながる道があるんじゃないかって……まあ、信ぴょう性のないよくある噂ですけれど。
第一、壁の向こうにいるのは喧嘩別れした相手ですから。
化け物がうろうろしてるって話ですし、神に見放された国に行ってもねえ。
そんなところですね。」
【神殿書庫】
・「そうそう、ご存知かしら?先の分裂戦役の頃。あの壁の向こうに追いやられた野蛮人たちは、私たちのことをこう罵ったそうですわ。この魔術師め!草原からきた魔の子孫め!って。ふふふ。壁の向こうの人たちにとって、私たち皆魔術師なんですわ。」【ありえぬ存在・ユリリエ】

この考えのおかしい点
・魔術師が禁忌扱いされるようになったことと神殿勢力が深く関与しているとすると、神殿が魔術を秘匿することと、権威を持つことの現在の関係性(当時信仰を創造することのメリット)がなければならないと思う

なお不明な点
・ルラント自身は魔術師だったのか
・セッカナの死と神殿勢力の勃興には関係があるのか
・徴システムはいつ誰によって作られたか
・徴システムがルラント以前に作られていたものとして、ルラント以前の「徴持ち」はどのように過ごしていたのか。*2

・(メタ的な話だが)「人を食う法」は徴システムに深く重要な関係があるとみなしていいのか

*1:雑文2008年4月20日世界の真実とか」で、氏は”「真実」って結局誤謬と思い込みからは逃れられない”というようなことを書かれています

*2:今でも王室以外は徴を知らないことを考えると、「変なあざだな」と思いつつもふつうにのんびり過ごせた、ということで矛盾はないようにも思う。