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Lakoffの概念メタファー理論(補足)

概念メタファー理論とは、従来の「メタファーは言い換えである(比較説)」「メタファーは直喩の短縮である(代替説)」というメタファー論から一線を画し、メタファーが人の認知(思考過程)それ自体に影響し、成り立たせているとするもので、Lakoff(レイコフ)という認知心理学者が提唱しました。

レイコフらによれば、メタファーというのは単に言葉や言葉使いの問題ではなく、人間の思考過程を成り立たせる重要な要因なのであり、メタファーとはメタファーにより成り立つ概念のことを意味する。 http://www.ec.kagawa-u.ac.jp/~mogami/metapher94.html

この理論により、従来単なる修辞的技術と捉えられていたメタファーが、認知心理学認知言語学の対象として扱われるようになったのは想像に難くありませんね。

先日更新した、学会発表の「メタファー写像と後編集を利用する物語文章生成フレームワーク」で述べられていた研究意図にかかわる部分にLakoffのメタファー理論があるそうで、その点を補足します。

メタファー写像に関して、Lakoff [Lakoff 93] は、「写像にお いて、根源領域の表現間の (位相) 構造は目標領域内でも保た れる ∗1。」という不変性原理を提唱した。この原理に則ると、 任意の 2 つの意味領域間において数個のメタファー写像の存 在が確認されれば、根源領域内の他の表現も位相構造を保った まま目標領域内に対応づけることができる見込みが非常に高 い。言い換えると、次の 2 つのことが成り立つ見込みが非常 に高い。 * テキストのジャンルを問わず、数個のメタファー写像の 存在が確認されれば、表 1 のようなデータベースが高い 品質で構築できる * ゲームやシミュレーター内に実装されている種々の制約 や論理が、物語文章生成においても制約・論理として働 くので、物語の展開において、「狭い意味でのフレーム問 題」[人工知能学会 05] を回避できる 我々は、これらの成立の検証も兼ねて本研究を進めている。 “ (人工知能学会「メタファー写像と後編集を利用する物語文章生成フレームワーク」)より。

引用中に述べられた「不変性原理」については下の論文の「3.不変性原理」に詳しいです。(論文自体は、文学作品の分析に概念メタファー理論を用いているものです) https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/ER/0021/ER00210L001.pdf

この物語生成実践の中にある「メタファー性」の定義は、Lakoffの本来の意味での「認知を構成するもの(他の等価な表現に置き換えることが不可能なもの)」としてのメタファー、という定義を逸脱しているのは間違いないですが、こうした文学理論をヒントに、情報分野での研究に有用なブレークスルーが生まれるとしたら面白いですね。